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東京都心でも雪が降った2020年3月29日の上空の気温はどうなっていたか?

最終更新: 7月7日

2020年3月29日、もうすぐ4月だというこの日は、天気予報の通り関東で雪が降りました。私たちの近所でも子供たちが雪だるまを作るくらいには積雪がありました。東京都心の積雪は1cmの観測だったそうですが、感覚的にはもう少したくさん積雪したようにも思います。


ところで雪の予測の目安として、850hPa≒高度1500mあたり)での気温がマイナス6度以下かどうか、という基準があります。テレビの天気番組でも「雪の目安となる寒気が…」なんて解説を耳にすると思いますが、それがこの基準です。


実はこの基準、天気予報の実務で特定の場所の雨雪予測をする場合には、ほとんど役に立ちません。なぜなら雪で落ちてくるかどうかは鉛直方向の気温構造を考える必要があり、特定の高度の気温だけでは予測できないからです。


極端な話、850hPaが0度であっても、それより下がずっと0度であれば雪のまま落ちてくることになります。そして実際に関東では、その地形的な特性もあって、850hPaが0度以下であれば必要条件は満たすとも言えます。

では2020年3月29日の上空の気温について、エマグラムで見てみましょう。つくば市(舘野)の高層観測を使っても良いのですが、時間間隔が12時間ごとなので細かい変化が見られません。そこで、気象庁メソモデルMSMの予測データから羽田空港の地点データを切り出し、エマグラム風にプロットしてみます。


使用するのは28日12Z(日本時間21時)を初期値とするデータです。予測なので厳密には実際とは異なりますが、結果からして実際と大きな乖離はないと考えられるので、よしとします。


プロットにはSHARPpyというアプリケーションを使います。これは気象会社に勤めていた頃、アメリカ・オクラホマ大学内にあるNational Weather Centerへ研修に行って知り合った友達が、開発者の一人として作成したPythonプログラムです。

余談ですが、National Weather Centerはオクラホマ大学の気象学部と、現地気象庁であるNational Weather Serviceが同居している学・官共用の建物で、竜巻など全米のシビア現象の予測に特化したStorm Prediction Centerという専門機関もあります。SHARPpyはこのNWSやSPCが使っている解析ツールと同等の機能を、Pythonで実装してOSSとして公開したものです。


またグラフは通常のエマグラムと違い、Skew-Tと呼ばれる表記方法で図示されています。気温の軸が右ななめ上に傾いています。0度線を黄色で示したので参照して下さい。Skew-Tは航空分野ではよく使われています。

では28日21時(以降日本時間で記します)から見ていきます。赤が気温で、緑が露点温度です。この時点ではだいたい700hPa(≒3000m)以下の高度では気温0度以上の層になっており、この状態では雪になりません。

面白いのは、南西風の800hPa(≒2000m)あたりは気温の極大となっており、地上気温と同じくらいの温度となっています。北東風の925hPa(≒750m)に気温の極小があり、厚みのある逆転層が形成されています。ここが前線面に対応すると考えられます。

(天気図は前日のブログを参照下さい)


29日00時になると、700hPaの気温はあまり変わりませんが、その下はだいぶ気温が下がり、925hPaあたりは0度に近づきます。この段階でもまだまだ雪にはなりません。

ちなみにこの時、800hPaの風は南西風→南東風に変わり、850hPaの風は南東風→東に変わっています。


29日03時になると、面白いことに850〜925hPaはほぼ0度くらいになったのに対し、それより高い高度の700〜850hPaが0度以上を保っています。もし925hPaの気温だけ見ていたら、そろそろ雪になるかも?と勘違いしてしまうかもしれません。

また、この時もし925hPa以下が0度以下だと凍雨や着氷性の雨になる可能性がありますが、925hPa以下は乾燥断熱減率に近い形で気温が上がっており、まだまだ雨で経過します。


29日6時になると、ようやく700〜950hPa(≒550m)がほぼ0度になりました。まだ950hPa以下の気温が高いので雨が続くと考えられますが、だいぶ雪に近づいてきました。

あと850hPaの風が北東風になってきています。


29日09時になると、ついに1000hPaまで0度以下になっています!また1000hPaの風向が真北に変わっており、内陸に蓄積された冷気が羽田空港周辺まで広がったのかなと思います。

羽田空港の観測(METAR)では、09時で地上気圧1020hPaなので、1000hPaは高度200mくらいだったと思われます。地上気温は4度でしたので、羽田空港においてはまだほぼ雨でした。しかしこの時間には、東京都心含め内陸ではしっかり雪になっていたのではないかと思います。

ちなみに羽田空港では11〜12時にみぞれから雪へと変わっていきました。


さて図からは読み取りにくいですが、850hPaの気温は実はマイナス1度くらいまでしか下がっていません。それでも雪になりました。最初に書いた通り、関東の雪予測ではマイナス6度@850hPaの目安は全く当てになりません。


関東平野は周囲を高い山脈に囲まれており、南岸低気圧の時は冷気がたまりやすい地形となっています。このため、850hPaがマイナス3〜0度くらいでも、それより下まで0度以下の冷気層が形成されていれば、雪として降ることができるのです。


そしてこの冷気層の予測が数値予報でも難しいため、関東の雪予想は難しいのです。

最後につくば市(舘野)の高層観測をプロットしたエマグラムも載せておきます。羽田空港と舘野はそれなりに離れているので全く同じ条件ではありませんが、だいたい上で見た特徴が実際に観測されているのではないかと思います。


縦の青線が0度線、赤丸は800hPaの気温と風をマークしています。舘野では29日09時には800hPaの風も北東風になっていました。


加藤芳樹

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