2020年2月7日、航空気象研究会を聴講しに行ってきました。
私たちにとって航空気象研究会とは、2007年の第1回からほぼ毎回参加している大事な年中行事のひとつであり、昨年は、加藤芳樹が『AIによる成田空港の霧予測実験』をテーマに発表致させていただきました。
今回私が聴講するのを楽しみにお目当てにしていたのは、
沿岸前線とは、寒候期によく関東地方沿岸部に現れる局地前線で、内陸部で形成された寒気が関東平野部へも傾れ、関東平野部を薄く覆う冷気層となって滞留する状況下に、海洋からの暖気が乗り上げるところに形成される前線です。
沿岸前線が厄介ぶりを発揮したのは、直近だと2020年1月8日。
この日の東京の予想最高気温は16~18℃で4月上旬並みの陽気と報道されていたものの、実際は7.6℃までしか気温上がらず、真冬並みの一日となったことは記憶に新しいかと思います。
※1月9日のブログにこの日の事例について言及しました
沿岸前線は航空機の運航にとっても厄介なもので、特に離着陸時において、最下層とその上の層とで風向風速と空気密度が大きく異なることで、操縦の難易度を上げたり気流の乱れによる揺れの原因にもなります。
また、気温の予想を大外ししやすい沿岸前線というのは、電力業界でも大変厄介なものです。
私は沿岸前線と聞くと、電力需給ひっ迫を引き起こした2012年11月26日の事例をすぐ思い出してしまいます。
送配電事業者やOCCTOのご苦労は当然のことながら、新電力運営においても沿岸前線による気温大外しの可能性リスクを念頭に置いた需要予測やポジション作成等で不確実性をマネジメントする施策が必要になる象徴的な現象かと思います。
さて、やっと本題です。
気象庁をはじめ予報士が天気を予報する際に用いるメインプロダクトである数値予報モデルは、沿岸前線発生の可能性は示唆できるものの、現象自体を的確に表現するのは不得手です。 今回の発表はこの事実を課題とし、これの施策等を提言する内容でした。
《課題とアプローチ》
実際の沿岸前線は左図赤線で解析される位置にあったが、これに対する数値予報MSMモデルの沿岸前線(右図赤線)の表現は、実際よりもだいぶ北に西に内陸側に予報した。
沿岸前線位置の系統誤差(バイアス)発生の主要因となるモデルの地形表現の粗さにフォーカスし、これの解像度を上げることで、実際の地形表現に近いモデルの中で大気構造や現象の予想も実際のものに近づけ、沿岸前線発現位置の再現性を向上させることを試みた。
《施策と結論》
地形の表現にメリハリを持たせるため、グリッド平均(左図)をグリッド最大値(右図)にし山岳標高を実際のものと同じにすると、平野部へ傾れる冷気層の水平方向の広がりと鉛直方向の厚みに再現性が向上し、沿岸前線の形成位置をより実際に近づけることが出来た。
※地形表現はグリッド最大値で水平解像度2[km]とした実験が最もパフォーマンスが良かったとのこと。
地形表現の再現性とモデルの解像度を上げることは、つまり予測計算コストが増大することとなり、現業での定常的活用には様々な課題があると思われますが、沿岸前線発生が予測される場合のピンポイント的にこのモデルを活用するという鈴木氏本ご人からの提言に賛成です。
今回は航空気象研究会の場でのご講演でしたが、もしチャンスがあれば電力業界が集まる場でもぜひご講演され、鈴木氏の実験が日本の様々な経済活動の一助になることを確信し期待しています。
加藤史葉
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