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不確実性のマネジメント(後編)

このブログは、第4回気象ビジネスフォーラムWXBC主催で2020年2月4日に開催)のトークセッションに登壇した際に、ショートプレゼンした内容についての解説です。全スライドはこちらをご覧下さい。

前編では、不確実性のマネジメントの概念について説明しました。後編では、実際に不確実性のマネジメントを適用してPoCした事例をご紹介します。


そのPoC事例とは、風力発電予測をもとに電力市場での売買を題材にして、不確実性のマネジメントを活用した場合の売上の変化をシミュレーションしたものです。


ここでは次のような背景設定をしています。まずある日に風力発電で発電した電気を市場で売るとします。そうすると前日10時までに、どれだけ発電するかの計画値を作成する必要があります。しかし自然任せの風力発電では発電量を人為的に決めることはできませんので、気象予測をもとにして発電量を予測し、計画値を作成して(前日中に)市場で売買します。

さてここで問題なのは、この計画値はあくまで予測値なので、必ずしもピタリと当たらないということです。もし計画値よりも実際の発電量が少なかった場合は、その少なかった分だけのペナルティ料金(インバランス料金)を支払わなければなりません。逆に計画値よりも実際の発電量が多かった場合は、市場価格よりも安い値段で買い取られることになり、機会ロスになります。


そして不足のインバランス料金と、余剰のインバランス料金に差があることも、考慮するポイントになります。


図のように予測値は前々日の夜に作成されるので、予測値にはそれなりの気象の不確実性を含むものになります。そして市場価格やインバランス料金は日によって異なり、例えば不足のペナルティがきつい時はあえて計画値を小さくした方がリスクを減らせる、といったことが起き得るのです。


そこで、不確実性のマネジメントの登場です。発電予測と市場価格・インバランス料金の予測に不確実性のマネジメントを適用し、予測値そのままを計画値とした場合と、不確実性のマネジメントを適用して売上最大化シミュレーションを行い、その結果に基づく計画値を作成した場合とで、売上の違いを比較してみました。


シミュレーションの流れはこのようになります。

まずは予測値に対応する実績の出現分布を作ります。このため、過去一定期間について、気象予測に基づいた風力発電予測の再現計算をします。


次に発電設備容量に関わらず数値の扱いを統一するため、発電量の実績値・予測値ともに0〜1の範囲に値を規格化します。

この状態だと発電量は連続値ですが、扱いやすくするため離散化します。ここでは0.1刻みで10個の予測レンジに分割します。すなわち、0〜0.1のレンジ、0.1〜0.2のレンジというように区切り、以降各レンジの真ん中の値(0.05, 0.15, ...)を代表値として使います。

予測値の10個のレンジそれぞれについて、実績値を集計してヒストグラムを作成します。これを予測値ごとの実績の出現分布として扱います。


これで事前準備が整いましたので、次に個々の予測を作っていきます。まず対象日の予測値を計算し、その値に応じたヒストグラムを選択します。図では予測値が0.2〜0.3のレンジだったとしてヒストグラムを選択しました。

次に市場価格・インバランス価格を推定する必要がありますが、ここでは簡単に月平均値を推定値として使うことにします。図では5月のケースを示しています。


そして期待値の計算です。ここでは計画値を0.1刻みで変化させたときの売上の期待値を、実績の出現分布と市場価格・インバランス料金をもとに計算していきます。例えば計画値を0.05としたときに、実績が0.05だった場合、実績が0.15だった場合、…といったように全てのパターンを計算し、売上の期待値が最も大きくなる計画値を探すのです。


図では青の棒グラフが実績の出現分布を表し、オレンジの縦線が予測値を表していて、値は0.25です。そして赤の曲線が0.1刻みで計算した売上の期待値です。


図を見ると、赤い曲線で表された売上の期待値が最大となるところと、予測を表すオレンジの縦線とが一致しています。よってこのケースでは、予測値と同じ0.25を計画値とすると、最も売上の期待値が大きくなるという計算になりました。


同様の計算を予測値が0.6〜0.7のレンジだった場合に行ってみます。すると予測レンジよりも大きい0.75が期待値最大の計画値という結果となりました。この出現分布と市場価格の想定では、予測値よりも多めに計画しておいた方が良い、ということです。


このようなシミュレーション計算を1年通して行うと、通年で予測値通りに計画した場合と、不確実性のマネジメントを実行して計画した場合の、合計売上が計算できます。


そしてその結果、

不確実性のマネジメントを実行することで、約5%の売上増加

となるシミュレーション結果となりました。


流石に売上倍増とはいきませんが、それでも予測値の扱いをうまくやるだけで5%もの効果を生み出せることになり、無視できない効果ではないかと思います。


さて、今回は不確実性のマネジメントを『風力発電予測と電力市場での売買』に適用しましたが、気象予測に基づく意思決定なら他にも様々な分野で応用が可能と考えています。


  • エアラインの悪天時における運航可否判断

  • 小売業の天気予報に基づいた商品発注

  • 天候に応じた人員配置


最適化する対象も売上や利益だけでなく、顧客満足度とか安全性など訂正的な要素も、うまく数値化できれば適用可能になります。


気象予測の様々な利用シーンで、不確実な気象予測を賢く使って恩恵を受ける、そんなお手伝いができれば幸いと思います。


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